絵と猫とぐだぐだ ~髙木元就

雑記ブログです。趣味で絵を描いています。漫画やイラストなども含めて、幅広く絵の好きな人に読んで貰いたいです。

自分の為のデッサン2 No.47

木炭デッサン

 僕個人の意識では、木炭の扱いが上手くいかずに困っていた。

 木炭紙(木炭デッサン用の画用紙) へ思うように木炭を乗せられず、濃い黒が出せないでいる。

 浪人時代、一緒に頑張っていた洋画や彫刻の生徒達の木炭デッサンは、もっと濃い黒を木炭紙に乗せて、使いこなしていた。

 あの時のみんなは、やっぱり凄かったのだなぁ、などと何度も思い返したものだ。

 S先生から確認した話では、提出は木炭デッサンでもよいことになっているから、デッサン期間の1週間はひたすら木炭デッサンをやろうと考える。

 それをチラチラと見てくる何人かの同級生達は、繰り返し「あいつはまだ変なことをしている」といって、モデルさんに話しかける。

 最初の頃は、その同級生達と一緒に笑っていたモデルさんではあったけれど、制作が進むにつれて、僕への批判に対しては笑わなくなる。

 それからモデルさんは「悪いけど、私はあの人のデッサンが一番好きだわ」と語り、同級生達は不快感を持ち、モデルさんに話しかけなくなる。

 

新入生歓迎会とその直後

 以前に書いた新入生歓迎会の話であるけれど、時系列としてはこの位の時期、放課後に新入生の歓迎会は開催された。

 その歓迎会に僕は出席せず、翌日になってから、先輩のDやS先生とのやり取りから、僕の悪口が歓迎会で語られ、盛り上がったことを知る。

 その歓迎会の翌々日、デッサンの最中にS先生は僕のところへやってきて「やっぱり木炭デッサンはダメ」と言われる。

 僕はこの言葉を深く考えず、提出用には鉛筆デッサンを描いて出すと返答する。

 しかし、S先生が言っているのは、提出物の話ではなく、授業のなかで木炭デッサンをやってはいけないのだと語る。

 そこから僕は、納得いきません、なぜ急にダメになったのですか、と説明を求める。

 S先生の言い分としては、

「モデルさんの肌はこんな黒い色をしていない」

「どうせこの後も、こんなデッサンを続けるつもりでしょ」

 というものばかりで、課題の出題内容として良い悪いという話ではなく、S先生個人の判断によって禁止された。

 その上で「ダメと言ったらダメ!」と言って、僕の話を遮って打ち切られる。

 このデッサンの最初に、S先生は「自分の為のデッサンをやってくれ」と語っていて、その話と矛盾している指示であることや、新入生歓迎会でのやり取りに感化されたのではないかと思えてしまうこと、他にも納得のいかないことばかりではある。

 でも、この時の僕は「ダメ」と話を打ち切られてからは、それに従っている。

 

鉛筆デッサン

 木炭デッサンを諦め、鉛筆デッサンを始める。

 その鉛筆デッサンもある程度進んでくると、それまで1度も会話をしたこともなかったI先生が、僕の絵に対して嫌そうな声で言葉を掛けてくる。
「うわぁ、真っ黒だなぁ。酷いデッサンだ。」
 その言葉に対して、僕は聞き返す。
「黒いデッサンはやってはいけなかったのですか?」
I先生はその質問に対して
「いや、別に悪いって言っている訳じゃないよ」

 そう言って、I先生は僕の所から離れていく。
 そして、僕のデッサンとは対照的な、ぬり絵の様なデッサンを誉めていく。
「色合いがきれいになってきたな」
 教室内の同級生達は、漫画の様にアウトラインの線を引き、肌部分は鉛筆を寝かせ、塗り込む様に鉛筆で薄く塗っている。

 そういうデッサンを褒めるから、他の生徒たちもそういう描き方を見習っていく。
 I先生は僕のデッサンに対して『酷い』といいながらも『悪いと言っている訳じゃない』と言っている為、僕は描き方を変えることもしなかった。

 このI先生が教室から去っていった後、いつも僕の絵を批判している同級生達は、僕だけがS先生とI先生から険悪な話しかけを受けていることを面白がって語り、モデルさんに賛同を求める。

 そこで、それまで口数の少なくなっていたモデルさんはこんな発言を、強い口調で始める。

「あなたたちねぇ、先生の言いなりになって描いてばかりいないで、この人みたいにもっと色々やったらどうなの?

 私も、先生達が注意している最中のやり取り聞いてたけど、何であの人があんな風に言われているのか、話を聞いても全然理解できないわ。

 言っちゃ悪いのかもしれないけど、あなた達がいつも悪口言ってるあの人が、このなかで一番上手なんじゃない?」

 それまでモデルさんと会話していた同級生達は、黙って何も言わなくなる。

 それから、モデルさんはお手洗いへと去っていく。

 お手洗いへというのは建前で、本当は、こんな発言をしたことでトラブルになるかもしれず、危機感からこの場を離れただけなのかもしれない。

 モデルさんがお手洗いへと去り、居なくなったことで、黙っていた同級生達は「あの人は絵のことを何もわかってないんだ」とまわりに語る。

 でもこのモデルさんは、何もわかっていない人ではなかった。

 このモデルさんは、彫刻科の彫像やデッサンなどでも、よくモデルをしていて、僕はそれを何度か見かけていた。

 同級生達とモデルさんの会話のなかでも、モデルさんは、洋画の画家のアトリエで、何度も裸婦のモデルをしてきたことも、デッサンのはじめの辺りでは語っていた。

 同級生達も、本当は自分等の力の無さをわかっていながら、自分達の都合の良い解釈に置き換えて語っているのだ。

 このやりとりのなかで、僕が何かを発言してしまうと、また何かのトラブルになるかもしれず、僕は黙っているばかりだった。

 でも仮に、同級生達がモデルさんに敵対心を持ち、暴言やらトラブルやらに発展していくならば、僕はモデルさんの立場を守らなくてはならない。

 そういう考えのもと、このやりとりを授業の終わりまで、ずっと黙ってみていた。