絵と猫とぐだぐだ ~髙木元就

雑記ブログです。趣味で絵を描いています。漫画やイラストなども含めて、幅広く絵の好きな人に読んで貰いたいです。

大学への呼び出し1 No.88

フレスコ画の授業

 今回の話のはじまりの部分は、時系列的なものでは少しだけ前の話となる。

 時期としては、まだK先生(男子)との悶着がはじまる前。

 日本画の授業のなかで、フレスコ画をやることとなった。
 これは課題や提出物という強制的なものではないけれど、本来の課題のひとつをフレスコ画に変え、希望する生徒はフレスコ画をやってもらうという形式にしていた。

 そのフレスコ画は、形式としてはそうであっても、他の学年も含めた全員の生徒がフレスコ画をやっていた。

 

 授業での話は少しだけ置いておいて。

 まずはそのフレスコ画のことを簡単に説明すると。

 フレスコ画は壁画という形式の絵画で、まだ乾いていない漆喰の壁に石灰水で溶いた顔料等で描いく絵画である。

 以前の投稿で、ミケランジェロの壁画の話を少ししたけれど、そのシスティーナ礼拝堂の天井画もフレスコ画である。

 色々と本を読んでいると、戦後の日本画の作家は、時々フレスコ画を学ぼうとする場面がある。

 日本画フレスコ画では、制作する上では共通・共感出来るものが多いと語られ、フレスコ画を通して西洋の文化に触れながら、日本画への趣向を深めようとする場面がある。

 この頃に日本画の授業でフレスコ画を行ったのは、そういう要素も孕みながらも、やはり数年前にシスティーナ礼拝堂の壁画の洗浄が行われたことによる世界的な話題や、その影響によるものだろうと思う。

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ミケランジェロ システィーナ礼拝堂 創世記の物語 作品紹介

 このフレスコ画日本画研究の一環として、授業内でやるという話を、僕はA先生(男子)から直接聞いた。

 その話を、A先生(男子)が僕に切り出す場面も変な状況なのだが、これ迄に説明してきた通りのもの。

 僕は課題に関してA先生(男子)を求めて研究室へ行き、A先生(男子)は居ないと言われながらS先生からの対応を受ける。

 それでS先生と会話をしていると、居ない筈のA先生(男子)は研究室の奥から何処かに向かって出ていこうとする。

 その出ていく途中で僕へ一方的な語りを始め、フレスコ画を授業内でやることを伝えてくる。

『日にちだけは決定しているけれど、まだやる教室などの具体的なものは決まっていない。
もし参加するなら、その決まっている日時に3年生のアトリエ(教室)で待機していてくれ。
もしフレスコ画をやる教室が別の所になっていても、その教室に高木君が居れば必ず誰かを迎えにいかせる。』

 僕は即答で、参加する意思を伝えてはいたのだけれど、実際の授業の時には、僕の参加問題は適当にされてしまう。

 

 それから、その約束の日の当日、僕はその指定された日時に指定された場所にいた。

 指示された時間が迫っても、何人かの生徒達は日本画の課題制作をしていて、何かが始まる気配は感じ取れなかった。

 大学の授業では、授業時間になってもなかなか教員がこないという場面がよくある。
 だから、30分程度の時間が経過することに何の疑問も持たなかった。
 それから一時間ほど経過して、ふと気付くと、教室に僕以外は誰もいなくなった。

 恐らく、フレスコ画の授業が始まったことを誰かが伝えに来た…

 或いは、始まる時間を僕以外の生徒達は把握していて、時間ギリギリまで日本画の課題制作をしていたのだろう。

 僕は、A先生(男子)に伝えられた日時の指定の場所に居たけれど、フレスコ画の授業の行われる場所は教えて貰えないまま、僕抜きで授業は始まる。

 僕はフレスコ画の授業を行っている教室を探すが、日本画の生徒も教員も一人として見つけられない。

 フレスコ画の授業のことをA先生(男子)から伝えられた時は、『やりたくなかったらやらなくていい』とか『必ず提出しなきゃいけない課題ではない』等とも言われていて。

 僕の授業への参加はトラブルが起こる可能性を秘めていて、僕にはフレスコ画の授業には参加して欲しくないようにも、僕は感じ取っていた。

 それでも僕は、躊躇しないで『出席します』と即答していた。

 これが日本画の授業絡みで大事なことだったならば、僕はA先生(男子)や大学事務に対して抗議していただろう。

 でも、『やらなくてもいい』とか『(やらなければならない)課題ではない』等と言われていたものであるから、トラブルや面倒事を回避する意味合いでも、早い段階で諦めはついていた。

 大学事務で、フレスコ画の授業を行っている教室を聞いても、事務員からは『わからない』と返答され、諦めて帰ろうする。

 その時になって、日本画校舎の少し特殊な教室で、生徒の出入りしているのを、校舎の外から偶然見かける。

 それから僕はその教室に行くのだが、既にフレスコ画の説明関係は全て終えていて、生徒達は制作準備・作業にとりかかっている。

 その状況を見て、やはり授業には参加しないで帰ることにした。

 仮に、教員の誰かを捕まえて抗議した処で、『同級生の誰それに聞け』という指示を出されることしか想定できない。

 今更、僕が何気なく話しかけられる生徒なんかは、日本画には学年問わず、一人も居ないのだ。

 そういう人物を作っても、その人物に迷惑をかけ、不幸にしていくのが目に見えている…この頃の僕には、そういう考え方しか持てなかた。

 

K先生(女子)からの電話

 フレスコ画の授業のことなんか忘れ、数ヶ月経過したある日。

 K先生(女子)から、僕の携帯電話に電話がかかってきた。

 

 本来ならば、大学で日本画の課題を制作している筈の時間ではあるけれど、僕には課題を制作する為の場所なんか与えられていなくて、自分の同級生達が何階のどの教室に居るかさえ知らないでいた。

 この頃は、K先生(男子)から授業に出てくることも禁じられてた以降の時期でもあった。

 大学で課題を制作できない分、いつもは自宅で絵を描いているのだが~

 この時は、たまたま遊びに出掛けていた。

 一緒に遊んでいた相手は、1年生の頃に数ヶ月程やったアルバイト(お店が潰れてしまって終わった)で知り合った石間さんと安藤さんという人物。

 

 電話がかかってきた時、僕は石間さんの車の助手席に座っていた。

 当時はまだポケベルが主流で、携帯電話を持っている人はあまりいなかった。

 僕の家には固定電話はなく、当時やっていたコンビニのアルバイトの連絡手段として、携帯電話を持っていた。

 僕の携帯電話の番号を知る人も、アルバイト関係の人と僅かな友人と実家の母くらいなものだった。

 そんな状態で、K先生(女子)からの突然の電話は驚いた。

 K先生(女子)側も、大学事務から僕の実家の連絡先を調べ、実家の母から僕の連絡先を聞く等の手間をかけていただろう。

 そして、K先生と電話越しの会話が始まる。K先生(女子)
「あなただけフレスコ画を提出していないようですが、どうして提出しないのですか?制作はしていますか?」

「え?フレスコ画は強制や提出物ではないので、やらなくても良いと聞いていますよ?」
K先生(女子)
「あなたは何を言っているんですか!
これは提出物で、あなた以外の生徒はもうみんな提出していますよ!
準備の手伝いはしますから、直ぐに制作して提出してください」

「そうなんですか…はい、わかりました。すいません。」

 研究室へ行く日時等の細かな話をした後、K先生はこんな話をしてくる。

K先生(女子)
「私がこうしてあなたに電話したことは、他の先生方には絶対に話さないでください。」

「なぜですか?」
K先生(女子)
「これは私個人が勝手にやっていることで、これを他の先生方に知られると、私の立場が悪くなるからです。」

「はい、わかりました。」


 隣にいた石間さんは、僕が大学の教員達と上手くやれていないことを知っていた。
 その上で、こんな事を言ってくる。

「出していない提出物を出せって言ってくれるなら、いい先生達だがぁ?
 普通の大学なら、提出物なんか出してなくても放っといて、後は留年だぞ。」

「いや~こうやって電話してきた事を他の先生に話すと、自分の立場が悪くなるから、このことは他の先生達に話さないでくれと言われたんですが、これはいいことなんでしょうかね?」
石間さん
「ん~わからん」


この電話のやり取りをしている時、僕はK先生(女子)のこの言葉を、深く考える迄はしていなかった。
しかし、時間の経過と共に、このやり取りは何度も思い返し、考え悩むことのひとつにもなっていく。