裸婦の日本画制作3 No.70
見間違えた絵の批評
まず、気になっていたS(女子生徒)の作品の批評の話から。
僕はS(女子生徒)の作品を遠目でしか見ていない けれど、遠目に見て、僕の描いた作品とそっくりだった。
彼女がその作品を手にしていなかったなら、僕は自分のものと間違えて、取り違えていたかもしれない。
僕の課題に関しては、制作の方向転換を強要された兼ね合いから、完成にはほど遠いい状態にある。
だから、描いている当人にしてみたら、細々と考えることもあるのだが、端からは差のない似たようなものだろう。
そのS(女子生徒)の作品への教員たちの対応は、他の生徒たちと同様に酷評だった。
S先生
「どうしてみんなこんなふうに描いてしまうのかなぁ」
I先生
「もっと絵に気持ち込めて描いたりできないの?
君も、好きな男の子とかのことで色々考えたりするでしょ?
絵を描くということは、それと同じことなんだよ」
「もっと絵のことで、色々考えてたりして描きなさい」
S(女子生徒)は、S先生とI先生の話に対して「はい」としか返せない。
僕個人は、I先生とS先生の指導をよく思っていなくて、数十人いる同級生達とは一人だけ違った判断をしている場面も多い。
その為に、いま自分の持っている考え方は、主観によって偏った受けとり方をしていないだろうか…等と、自問自答をよく繰り返す。
今回に関していえば、S(女子生徒)が僕と同じ様なことを考えて、この絵を制作していたと見て取れるので、S(女子生徒)の絵を通して、いつもよりは客観視できていたかも知れない。
この教員達の指導には、どうしても二枚舌という感じの発言が多い。
教員達が「もっと色んなことをしていいんだよ」と語っていても、行って許される範囲も限られていて、自由と言われても少ない選択肢から選ぶくらいのことしかできない。
新しい試みで制作を失敗したなら、真面目に取り組んでいないと決めつけられてしまう。
絵を模索する過程というのは、その生徒なりに、色んな失敗や試行錯誤や経験の積み重ねもあるもので。
だから、何かに閃いて、その閃きを行ってみたら失敗するというのは、「自由」とか「色々なことをやっていい」という言葉の想定になる。
こんなこと、ここでわざわざ書くまでもない当たり前のことと僕には思うのだが…
この教員達のいつも求めていることは、そういうことではなく、即時に良い結果を出しなさいということなのだ。
教員の数だけ、色んな絵を描く先生達が居るのだから、その先生達の色々のなかから、自分の考えに合う描きかたを選んで絵を学ぶ。
美大や芸大で語る自由というのは、そういうことなのだ~という説明を、これ迄に僕はS先生とA(女子)から何度も受けてきた。
それに対して、僕は何度か反論して、その度に「人の話を聞かない」とか「高木の言っていることは全て間違っている」と締め括られてきた。
僕の意識としては、会話のなかで意見も反論もするが、課題として「やりなさい」と指示されたことには、納得いかなくても従ってきた。
どの場面でどの教員からどんな言葉をかけられたかも、僕はきちんと頭に入れている。
だから教員達から「高木は人の話を聞かない」と言われるのは心外に思うのだが、そういう考え方が通用しない。
その上で、教員達の語る話や指示も、どうにもおかしなものばかりに思える。
恐らくこの教員達は、そういう風に、組織上の目上の人達の言葉を聞いては何となくで解釈して従い、自分なりに深く考えては絵を作ってこなかったのだと思う。
そして、そういうことを自分の生徒にも押し付け、そうするのが当然のことだと信じているのだろう。
日本画に限った話ではないかも知れないが、少なくともこの大学の日本画の教育では、「何となく」という具体性のない部分での理解を多々求められる。
この「何となく」は、日本人の性格的な要素や、日本画の技術の継承からも、深く繋がっている。
逆に洋画の教育では、この「何となく」という解釈を極力なくす傾向がある。
後々のどこかで、この「何となく」ということに触れた話も書くつもりでいるが、上手く説明できずに終わるかもしれない。
僕の絵の批評がまわってくる迄に、僕としては色々と呆れていた。
I先生とS先生は、生徒に向けて繰返し「何でこんな風にしか描けないんだ」という言葉を口にしているけれど、いつまでも自分等の指導力不足には気付かない。
噛み合わない批評
それから、僕の作品を批評される順番がまわってくる。
まともな批評を受けられないのは察していたが、実際に批評を受けると悪意しか感じ取れなかった。
教員や生徒たちの前に僕の絵を置くと、S先生は質問してくる。
S先生
「これで完成か?」
僕
「いえ、まだ途中です。」
I先生
「こんな絵を描くんだったら、この大学は辞めた方がいい。」
僕
「何でそんなことを言われるのか、意味がわかりません。」
I先生
「何でわからないんだ。本当はわかってるんだろ?」
僕
「わかりません。
何で大学を辞めなきゃいけないんですか?」
S先生
「でも本当はわかっているんだよな?」
僕
「これだけの会話で、何をわかれと言っているのですか?」
I先生は怒鳴り始める。
「何でわからないんだ!」
僕
「僕は、S先生とI先生の指示に従ってこの絵を描きました。
それで何かが悪いのだとしたら、先生達の教え方がわるいんじゃないですか?」
S先生
「こんな絵を描けなんて、俺達は言わない。」
僕
「それなら、僕が嫌いだから嫌がらせとして、こういうことを言っているんじゃないですか?」
I先生
「そういう訳じゃない。」
僕
「じゃあ、どういう訳なのか説明してください。
説明して貰えないと、僕には何もわかりません。」
I先生は怒鳴る。
「何でわからないんだ!」
僕
「僕は下図相談もして、先生達から制作の許可を貰って制作をしています。
それでも途中から、S先生にやりかたの強要をされて、結果としてこういう絵になりました。
本来自分の描きたいものを我慢して、この絵も制作をしていたんです。
こんな絵と言うなら、どういう絵を描けと言いいたかったんですか?
先生達側で、伝えるべき事をきちんと伝えてくれないから、こんな絵になったんじゃないですか。」
I先生
「この絵からは何も伝わってこない」
S先生
「もっと形とかをしっかりと見て描けってことだ。
俺達の言っていること判るだろ?」
僕
「わかりません。
デッサンの時に、日本画では、彫刻の様な形を捉えようとするものはダメだと言っていたじゃないですか。」
I先生は怒鳴る
「だから、何でわからないんだよ!」
僕
「僕が先生達の好みそうな絵を描かないから怒ってるのですか?」
I先生
「そういう訳じゃない。」
僕
「では、形がとれてないからダメなんですね。」
I先生は
「そういう訳じゃない。」
僕
「では使っている色の問題ですか?」
I先生
「そういう訳じゃない。」
僕
「では、盛り上げや厚塗りをしていないからですか?」
I先生
「そういう訳じゃない。」
僕
「では何がダメなんですか?
この課題ではどうしなければならなかったのですか?」
I先生は怒鳴る。
「お前だけみんなと違うだろ!」
S先生
「高木が言うようなことは、もう充分に説明してきた。」
僕
「他の生徒には説明したのかも知れませんが、僕はその説明を受けていません。」
S先生
「いいや、俺は高木に直接きちんと説明した。」
僕
「モデルさんのポーズ以降、授業も受けさせて貰えないのに、いつどうやって教えてくれたのですか?」
I先生は怒鳴る。
「だから、何でわかんねえんだ!」
I先生は、まわりの生徒に対して「こいつ本当に腹立つな」「こいつ頭おかしいよな?」と話しかける。
多くの生徒は苦笑いをして黙っているが、男子生徒の何人かは「高木はバカだ」と言いながら笑い、それに対するI先生も「こういう奴はこの大学にはいらん」と語る。
僕
「先生達はこれ迄ずっと、自由とか自分の描きたい絵を描いたらいいとか言ってたじゃないですか。
それで、みんなと違っていることを責めてくる意味が理解できません。」
S先生
「あのなぁ、言っておくけど、大学は絵を描く所じゃないんだよ。」
僕
「言っている意味がわかりません。
この大学は絵を描いて学ぶ所じゃないんですか?」
S先生
「高木は本気でそれを言ってるのか?
大学は基礎を学ぶ場所だ。
基礎以外の絵を描くなら、大学なんか辞めて独りで絵を描いていろ。
俺たちの言ってる事わかるだろ?」
僕
「わかりません。
大学は、生徒が学びたい絵を自分で考えたり選択して、自分なりの絵を模索していく処じゃないんですか?
先生達の言う基礎は、大学へ入学する前に学んでくることで、それを入試で出来ているか判断しているんじゃないですか?」
I先生
「お前の言っていることは、全部間違っている。」
僕
「僕が間違っているのは、先生達がこれ迄に、きちんと説明して教えてこなかった結果じゃないんですか?」
I先生は怒鳴る。
「お前、いい加減にしろよ!」
S先生
「高木は本当は判っているのに、判らないと言ってるだけなんだろ?」
僕
「わかりません。」
S先生
「常識で考えればわかるだろ?」
僕
「僕の常識で考えたら、間違っているのは先生達です。」
I先生
「じゃあ今すぐに学校を辞めろ。
お前みたいな奴は、大学に居ても何の意味もないから。
でも、学歴を身に付けるためだけにいるなら、話は別だな。」
S先生
「俺達の言っていること、本当はわかっているんだろ?」
僕
「わかりません。」
I先生は怒鳴る。
「ここにいる生徒はみんなわかっているのに、何でお前だけわからないんだ!」
僕
「教えている先生達が間違っていて、それに従っているみんな(生徒)も一緒になって間違っているんじゃないですか。」
I先生は怒鳴り、出席簿を投げつけてくる。
「何でお前だけがわからないんだ!」
僕
「もういいです。」
S先生
「本当はわかっているんだよな?」
僕
「わかりません。だから、もういいです。」I先生は怒鳴る。
「こいつだけは、ホントに腹立つわ。
邪魔だから、早く大学を辞めろ!」
S先生
「俺達の言っていること、わかっただろ?」
僕
「わかりません。だから、もういいですって。」
そういって、僕は自分の制作した課題を片付けようとする。
S先生
「でも本当は、わかっているんだろ?」
僕
「わかりません。」
I先生
「こいつ、本当に頭おかしいな。」
S先生
「俺達の言っていることわかっただろ?」
僕
「ああ、はいはい、わかりました。」
そう言いながら、僕は講評会を行っている教室から去っていく。
去ってく僕の姿を見ながら、何人かの同級生達は「うわ、やっぱり惨めだ」「高木は頭がおかしい」「バカだ」等と言って、I先生やS先生と一緒に大笑いしていた。