絵と猫とぐだぐだ ~髙木元就

雑記ブログです。趣味で絵を描いています。漫画やイラストなども含めて、幅広く絵の好きな人に読んで貰いたいです。

店長不在の店舗4 No.130

引き抜かれてきた店長 

 Kという人物が、店長になることを前提に入社してきた。

 Kはパチンコ店の常連客で、S本部長とS専務から誘われて、そのときにやっていた飲食店の仕事を退職して入社してきた。

 しかし、入社前にS本部長から聞いていた待遇と実際の待遇に大きな違いがあったらしい。

 具体的なことをいうと。

 Kは入社した最初の月から、店長としてそれなりの額の給与を貰うつもりでいた。

 そうして実際に入社すると、一般の正社員としての一番最初に貰う給与額となっていた。

 そのことに対する会社の話は、『仕事の引き継ぎをして店長になってから、約束の給与額は払う』というものだった。

 他にも何かあったのかも知れないが、本人の語っている話はこういう内容だった。

 そのことで、 Kは入社してすぐに、

「俺はこの会社に騙された」

「この会社に来たことで、俺の人生は終わった」

「こんな会社はすぐ辞める」

 等と、アルバイト達に対して語り始める。

 アルバイト以外の正社員や幹部達に対しては、その話を語らずに内緒にしようとしているものの、色んな処で筒抜けになっていた。

 

 このKという人物は、空回りばかりの人物で、会社では何かと話題になった。

 その空回りに関しては、Kの退職する少し前に、当人の口から(無自覚ながらも)事情は語られていた。

 Kは過去に飲酒運転をして事故を起こし、一度は心配停止したことがあった。

 その事故以降、いつも思うように立ち回れなくなり、様々な仕事でも失敗を繰り返していくことになる。

 このKの要領の悪さは普通ではなくて、本人から聞いた話も含めて思うのは、脳に軽い障害を残しているのだと思う。

 

 Kは調理師免許を持っていないが、飲食店での仕事を幾つか経験していて、調理においては信頼できる人物として引き抜きされてきた。

 しかし、実際にはそんな感じではなく、決められた最低限の作業をこなすだけで精一杯で、期待されていた新メニューの考案や店舗管理なども出来ない存在だった。

 そういうKの状況なども知らないまま、S専務とS本部長はKの見栄で語った話を信じて「カラオケ店の店長をやらないか」「カラオケ店の仕事なんか簡単で、店長なんか誰でも出来る」と誘い、この会社へ入社させる。

 そうしてKは、会社から期待されていること以前に、アルバイトや普通の社員の立場でやる様な作業もこなせずにいた。

 いつまでも仕事を覚えず、ミスやトラブルも絶えなかったので、Kがいる時期でも休みをとることは出来なかった。

 そのことをネタとして、S課長が中心になり、会社中ではKの要領の悪さを面白おかしく語り、S本部長も『バカはいらない』と見放していた。

 そんなKを不憫に思い、僕はタイムカード上は休んだことにしながら、実際には休みをとらないことが常習化してった。

 新人がいつまでも仕事を覚えられないのは、教える側(僕)の責任であるし、後始末や尻拭いも教える側で行う責任がある。

 僕も要領のよい人間ではないので、そこは寛容でありたいという考えをもっているから、その様に動いた。

 会社のそういう状況もあってのことだろうが…僕の経験上、いつまでも仕事を覚えられずに同じ注意を受け続けている者は、ある時期からふて腐れたり開き直ったりする場合が多い。

 Kも同様にふて腐れ、開き直りをしていく。

 自分がミスをしたり上手く立ち回れないのは、高木のせいだと語り、古くからいるアルバイト達と僕の悪口を語り合う様になっていく。

 それでいて、自分へ本当にキツく叱りつけてくるS課長等のことは、陰口がバレた後のことが恐くて、口には出来ないでいる。

 結局は、悪口の言いやすい人物を悪者に仕立て上げ、自身のミスを認められずにいる。

 そういうことを契機として、また色々とトラブルは起きる。

 Kはアルバイト達の言葉に従って、アルバイトの知人である中・高生にお酒の提供をしたり、ヤクザ関係者(アルバイトの知人)の不当要求に応じたり、他にも色々とやってくれた。

 

 僕は自分では、仕事上のミスには寛容な方だと思っている。

 それは、自分でそう思っているだけで、実際は違って受け取られているかもしれないが。

 仕事を続けていく上では、どうしても身につけなければならないことはある。

 どうしても身に付けなければならないことがその人にとっては鬼門で、いつまでも身に付かないとか、軽視してはいけないことを軽視してミスをするとか~教える立場からは、内心では怒っていなくても強く叱らなければならない場面もある。

 僕の意識としては、時に強く叱る行為もその従業員のことを考えてのことなのだが、Kにとってはそうは受けとれなかった様だ。

 Kは、店長になる前提で入社してきたことや、まわりへの見栄なんかもあり、仕事を覚えられないことに開き直り、自身の繰り返す失敗に嘘をついて誤魔化そうとする。

 そんな感じのKだから、いつまでも教育は終らず、店長にもなれないし、僕もいつまでも退職できない。

 

 会社(幹部達)としては、カラオケ店の正社員は僕とKの二人いるのだから、お互いの休憩や休日は対応しあっていると考えている。

 しかし、Kはいつまでもその段階にまで成長しないので、Kは休憩や休日を殆んどとっていたのに対して、やはり僕は休憩や休日をとれない。

 僕がKに叱る部分も、覚えるべき作業を覚えないことに重点を置いたので、僕が休みや休憩をとれない状況について、僕からKへ責めたことはない。

 そういうことも、本当はKもわかっていたかもしれないが、どうしても見栄の方が先に出てしまい、会社への様々な不満は、いつも僕ばかりに向けられた。

 不満をぶつける相手が僕であれば、叱られ方もたかが知れているし、僕を悪くいうことで、古くからいるアルバイトの女の子達も上辺では仲良くしてくれる。

 そうして、僕を陥れて困らせるという考えは、Kと古くからいるアルバイト達とで一致し、示し合わせをする。

 

示し合わせた出勤拒否

 過程の話を多く省いて、Kの退職する時の話に入る。

 古くからいるアルバイト達とKとで示し合わせて、年末年始の店舗の営業をボイコットしようという打ち合わせもあった。

 クリスマス過ぎくらいの時期までは、みんなで「年末年始は多目に出勤します」と主張しておいて、年末年始の直前になってから出勤を拒否する流れだ。

 そうすることで、一年間で一番忙しい年末年始の営業を滅茶苦茶にして、高木を会社に居られないようにしてやろう、と計画していた。

 ちなみにKに関しては、会社の勤怠の締日で退職することを会社に求め、皆より少し早い12月10日で退職していった。

 この話は、僕が勝手にそうだと思ったことを書いているのではなく、複数のアルバイト従業員が退職する時などに、実際にそう語っていたことなのだ。

 

 そんな計画なんかを、当時の僕は知る筈もなかった。

 それでも僕は、状況からそれに近い状況になることを予測していた。

 この頃は、古くからいるアルバイト達は殆んど出勤しなくなっていて、たまにの出勤でも無断欠勤や当日欠勤をしている。

 僕の経験上からも、辞めると語っている者達は、退職する最後の日を迎える前に来なくなったり、普段起こさない様なトラブルを起こす割合も高い。

 僕はS本部長に対して、そういう状態にあるアルバイト達の出勤を宛にして、年末年始を迎えるのは危険だと意見した。

 

 この時もS本部長は、僕を恫喝して意見を聞かず、会話自体を潰していこうとする。

 大体の場面で、僕はS本部長等の行う恫喝に反論はしないのだが、新しく入社してきたアルバイト達の立場を守る為には、この時ばかりは反論して勝たなければならない。

 大概のことで反論してこなかったのは、こういう場面で反論から逃がさない為だ。

 そのS本部長とのやり取りは、二時間程続けての口論となった。

 本部長は、僕の弱みらしき処(そう思い込んでいるだけ)を責めながら、内容など関係なく僕の考えを否定する。

 この会社で持っている僕の弱みといえば、新人アルバイトの立場を守ろうとする気持ちだけだった。

 

 僕の気持ちとしては。

 指示した仕事をきちんとしている新人アルバイト達が、少しでも理不尽な思いをしないようにと、僕はずっと奮闘していた。

 その僕の奮闘する姿は、会社の幹部達からは歪められて噂されている。

『新人アルバイトのなかに高木が恋心を持っている人物がいて、いつも高木はロクに仕事もせずに、その人物と遊んでばかりいる。

 高木が上司達に意見したりしているのは、全てその恋心を持っているアルバイトをえこひいきする為のもので、古くからのアルバイト達も、高木の恋心の為に邪魔で追い出そうとしている。』

 こういう噂を幹部達が作り、全てのパチンコ店の一般従業員達に語り広めている。

 こういう噂を広める会社の幹部達は、普段から楽な立ち位置で働き、各店舗の売上を落とし続け、頻繁に社長から叱られている。

 そういう手前、高木という存在が努力をして、店舗の運営が上手くいっていると噂を聞くのが堪えられないでいた。

 高木はロクに仕事をしない・使えない人間として認識されなければ、会社の幹部達の都合が悪いのだ。

 高木がパチンコ店からカラオケ店へ移動した直後から、パチンコ店のホール作業の質は落ち、アルバイトや一般従業員達の会社や役職者達への不満を爆発させていること等を、高木の評価として認める訳にはいかない。

 カラオケ店の勤務時間についても。

 会社の役職・管理職にある勤務時間の長い人達でも、勤務時間は10時間~12時間くらいで、その殆んどの時間は事務所でくつろいでいる。

 そんな状況で、僕は毎日13時間(週末は16時間)も勤務時間として固定され、ずっとホールで動き回り、 勤務時間を終えても仕事は終らずサービス残業をする。

 この頃は休日も数年くらい全くとれず、そのことを会社の幹部達は、知りながらも知らない振りをしている。

『高木はいつも、ロクに仕事もせずに遊んでばかりいるのだから、そうなるのは仕方がない』

『自業自得なんだ』

『いつも仕事をしないことに対する罰だ』

 そういう理屈をつけないと、幹部達の面目をたてたり、言い訳する要因がない。

 自分の育てた部下が成果を上げたと喜ぶ心は持てず、他人の評価で自分が無能だと認識されないかと、いつも不安を抱えている。

 その為、僕の仕事上の良い噂を耳にする度、評価を下げる為の嘘の噂を作り、広めなければ気が済まないでいる。

 そんな状況を実感する度、画学生時代の教員や同級生達との人間関係とが被って見えてしまう。

 

 こんな幹部達の積み重ねて作った嘘の話を、S本部長は、僕の弱みと信じて責め立てて黙らせようとする。

 しかし、事実を基にした会話になると、僕はきちんと仕事をしてきた者なので、弱みなど何もなかった。

 逆に、S本部長には多くの弱みがある。

 僕がこの会社へ入社してきた頃、S本部長は不倫問題で会社から責められていた。

 そのことでカラオケ店のアルバイト達は、影で、S本部長のことをエロおやじと語り馬鹿にしていた。

(S本部長には、この『エロおやじ』の話が一番堪えた様子だった。)

 そのエロおやじの話から反論を始め、事実ではない噂だけで僕を責め立ててきたS本部長の行為や、僕や新人アルバイト達がカラオケ店できちんと仕事をしている証明(作業の表を作り、誰がいつその作業をしたのかを明記している)なども見せ、S本部長は弱り反論する余地はなくなった。

 それでも僕はお人好しの甘い人間であり、S本部長を追い込んで僕の主張を押し通すのではなく、前向きな話し合いという状況を求める。

 そのことで、S本部長は弱りながらも『古くからいるアルバイト達を辞めさせるかどうかは、年末年始の働いている様子を見てから判断する』という意見を語る。

 僕は『年末年始は、様子を見る過程で(人手不足で)店はまわらなくなります。そうなった場合のことは、今から考えておいてください』と語った上で、その結論で手を打った。

 

 年末年始の勤務状況といえば。

 古くからいるアルバイト達は、やはり年末年始の営業が始まる直前で出勤を拒み、殆んど出勤しなかった。

 そのことで、年末年始の営業は人員不足でメチャクチャになった。

 でもそこは、前以て僕からS本部長へ「そうなる」と意見し、その通りになった経緯がある。

 それに加えて、S本部長は年末年始のカラオケ店の忙しさを軽く考え過ぎ、人員の補充や他店舗からの応援の手配を怠った。

(僕にはそういった権限はないので、S本部長へ何度も求めていた)

 そうして年末では、人手不足によってとれる筈の売上はとれず、クレームも多発する。

 年始では、見込んでいた来客数からは大幅に落ち込む。

 そのことで、年末年始に見込んでいた売上も、数百万くらい落とす結果となった。

 

 古くからいるアルバイト達の件では、結果としては全員退職して貰った。

 そうはいっても、そのアルバイト達自体も、殆んどは、最初から退職する前提で計画して動いていた。

 学生を卒業する関係で、2~3月くらいに退職する予定だったのを、年始の営業直後で辞めて貰うとか、他の仕事への転職準備を終えていて~そのまま辞めていったり、そんな感じだった。

 そのなかで一人だけ、転職先の仕事が上手くいかず、カラオケに戻ってまた働きたいと求めてきた。

 それを僕は断ったので、具体的に僕が辞めさせたアルバイトというのは、一人だけである。