小説版 0080~ポケットの中の戦争(後半)
前回の続きですが、今回は少し長いかもしれません。
それと、物語の中身自体を語ってしまうので、ネタバレ平気な人だけ読んでください。
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 (角川文庫―スニーカー文庫)
- 作者: 結城恭介,美樹本晴彦
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1989/10
- メディア: 文庫
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ガンダムNT-1 人類が宇宙に進出して、人の進化や革新が起きた存在を、ガンダムの世界ではニュータイプと語られる。
地球連邦軍で、そのニュータイプであると考えられるパイロットのアムロ・レイ用にと、ガンダムNT-1は地球で開発されていた。
それを破壊する為に追っていたサイクロプス隊は、そのガンダムNT-1の撃破に失敗し、とり逃してしまう。
そのとり逃がしたガンダムNT-1は、サイド6の交戦のなかで、新兵のバーニーと民間人のアルとの接触で、偶然にみつかる。
ルビコン計画
その後、バーニィはサイクロプス隊に配属され、改めてサイド6へ侵入する。
この時期の戦争は末期にあり、ジオン軍の敗戦色は濃厚にあった。
そして、追い詰められているジオン軍は、サイド6の民間人も巻き添えにしてでも、核ミサイルを使ってガンダムNT-1を破壊しようとしていた。
しかし、そのサイド6は非戦闘地域で、その行為は戦闘協定違反である。
その核ミサイル攻撃を止める者もジオン軍のなかにはいて、核攻撃の前に、問題のガンダムを爆破か奪還する作戦が行われた。
バーニィの配属されたサイクロプス隊がガンダムNT-1を撃破(又は奪取)出来ない時・作戦失敗時には、核爆弾でサイド6のコロニーごと破壊することとなる。
サイド6のコロニーへ秘密裏に侵入したサイクロプス隊を、アルはバーニィを発見することで付きまとう。
サイクロプス隊の作戦に深入りしようとするアルを、隊員のガルシアは、作戦遂行の為にコロしてしまうべきだと何度か主張してはいた。
その都度、隊長のシュタイナーはなだめ、アルを隊員の様に扱いながら、サイクロプス隊のことを他言しないように説得する。
ガンダムNT-1の破壊作戦を開始し、死を覚悟をした決戦が始まるとき。
隊長のシュタイナーはバーニィに対して、民間人のアルを戦いから遠ざける様に指示する。
そうしてアルとバーニィを残し、サイクロプス隊はみな戦死していった。
秘密裏に持ち込んだジオン軍のモビルスーツのケンプファーも、ガンダムNT-1には善戦もできずに負けてしまう。
このルビコン計画は失敗に終わった。
クリスマス作戦
このままではジオン軍の核ミサイルによって、サイド6のコロニーは攻撃されてしまう。
バーニィは最初に来たときに大破したザクを修理し、アルと、幾つもの罠と策を練って、ガンダムNT-1に戦いを仕掛ける。
この計画日が、ちょうどクリスマスと重なるために、アルはこの作戦をクリスマス作戦と名付けた。
準備が終わり、バーニィは「6時間後に作戦を開始する」と語り、アルを家に帰した直後、バーニーはひとりで作戦を開始した。
予め仕掛けておいた罠に、ガンダムNT-1を上手く嵌め、バーニィの乗るザクは善戦する。
そうして戦いの結末は、相討ちで終える。
ガンダムNT-1はカメラのある頭部をはねられ、ザクはコックピットを串刺しにされる。
クリスマス作戦が、バーニィひとりによって開始された頃。
作戦に取り残されたアルは、クリスマス作戦の実施直後に幾つかの事柄から、ガンダムNT-1のパイロットがクリスであることを知る。
サイド6のコロニーに向けられた核ミサイルも、戦死したミーシャの手配により、連邦軍へ通知され、コロニーの爆破が阻止されたことも知る。
アルは、クリスとバーニィの戦いを止めようと、ふたりのもとへ向かう。
しかし、アルの目の前で、ふたりの戦いは終わってしまう。
バーニィはこの戦いで、アルの目の前で戦死してしまう。
アルへのビデオレター
バーニィはアルに向けて、ビデオレターを残していた。
アルが、手渡されたそのビデオレターを見る描写は、物語のなかにはないのだけど。
ビデオレターのなかでは、クリスマス作戦が失敗に終わり、バーニィ自身も命を落としてしまった場合を想定して、バーニィはアルに話しかけている。。
結末と感想
宇宙歴0080年に、地球連邦軍とジオン軍の戦争は終結する。 後付けの設定だけど、終戦日は1月1日となっている。
物語では終戦後、小学校の校庭で全生徒が、校長先生の挨拶を聞く。
終戦を迎え、その戦争の影響はこのコロニーにも及んだこと。
その校長先生の話の最中。
OVA版でのアルは、大泣きをして終わる。
小説版のアルは、涙を流すだけに留め、アルを見守る両親はある会話をしている。
物語の終わりに、アルのお父さんは新聞の記事で読んでいる。
このコロニーでは、地球連邦軍の新兵器が開発されていて、そのために、ジオン軍からは核ミサイルでコロニーごと狙われていたこと。
その事態からコロニー救おうと、あるジオン軍人が、ザクで奮闘したこと。
その軍人は奇跡的に助かり、意識を取り戻した、との記事を。
小説版の0080~ポケットの中の戦争にだけ、バーニィは生きていたという描写が書かれている。
OVA版は制作者側も手応えがあり、人気のある作品になっていた。
バーニィの死によって、物語は大きな意味を持っていたのだけど、小説では、敢えてそのバーニィを生き返らせた。
あとがきにも書いてあることで、この内容の変更は、一流の悲劇を三流のハッピーエンドに落としている。
それ故に小説版の0080は、この内容も含めた意味合いで駄作と語られていた。
OVAで悲劇の物語があったからこそ、存在できる小説版の物語ではあるけれど、バーニィの生死には賛否の意見が別れる。
僕のなかでも、バーニィが死ぬ前提の話の方が、物語としては良かった。
でも、ガンダムのシリーズは今でも作られていて、この物語以降の時代や、兵器の発展等でガンダムNT-1の位置付けを語られているなかでは、どうしてもアルやバーニィやクリスの存在も考えてしまう。
0080の物語やアルの存在は、これ以降は語られずに終わってしまうのだけれど。
その後のアルの人生を考えると、これでは救いは無いようにも考えてしまう。
小説版結末でのバーニィの生存は、それはそれでよいものではあるが、やはり僕も駄作と言ってしまう作品となっている。
その後のあとがきで、こういったことに触れているから、まだ不満の声を納得に変えているのだと思う。
それがなかったなら、否定の声は強かっただろうから、あとがきまでもが物語のひとつとなった、珍しい小説なのかもしれない。
思えば、ケンプファーでガンダムNT-1を撃破する作戦の為、コロニー内を移動するミーシャは、戦争に無関係な民間人を踏まない様に気を付けていた。
隊長のシュタイナーも、新兵のバーニィや民間人のアルを死なせないようにと、作戦から離脱させていた。
ガルシアも、戦いのなかで隊長のシュタイナーを気遣いっていた。
最後の戦いではバーニィも、アルを気遣って作戦実施から遠ざけていた。
ジオン軍のサイクロプス隊の各々が、他人の命を気遣う優しい面を持ちながら、戦争という殺し合いをしている。
時代の流れとして、ファーストガンダムの放映以前の宇宙戦争もの(スペースオペラ)の物語は、敵は悪であり、勧善懲悪の単純な物語上の柱があった。
それからガンダムの世界では、主人公達のいる地球連邦軍でも敵のジオン軍でも、それぞれに正義も悪もあり、それぞれに心を持った人どうしが戦争をする物語になっていった。
この0080~ポケットの中の戦争も、いつもは敵として描写されるジオン軍の普通の人間ぽさを見せていきたかったのだと思う。
そういう人どうしで、地球連邦軍とジオン軍は戦争をしていて、ジオン軍に肩入れした民間人のアルの視線で語れたのが0080の物語だった。
そんな訳で、ひっそりとこんな結末の変化が語られているのも、ありかもしれない。
バーニィが生きていて良かったね、アル。